勝川STAND

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『アリエリー教授の「行動経済学」入門 お金篇』で人間をアホにさせるお金について学ぶ

僕は、広告業界の端っこで十数年で生きてきました。

 

ダイレクトメールを使って、ひとの心をどう動せれるかを考えています。僕はデザイナーではなく、ディレクター寄りのポジションで、デザインでどう見せるかについてはデザイナーにお任せしています。なので、そこに落とし込むまでのことを中心に考えています。とはいえ、本当にそんなことを考えだしたのはここ数年で、それまでは来る案件一つ一つに対して「売上」という単位で捉えることが多く、積めたはずの経験値を失っていたこともあったと今更ながら感じています。

 

この数年は、編集力を高めることと、マーケティング領域の知識習得を積極的に行ってきました。大学ではまともに勉強をしてこず、勤め人になってからも、仕事を給料をもらうためだけのものという感覚で長年過ごしてきていたため、いまの歳になって学びが多くなってますが、この状況で強く感じることがあります。

 

結構、フレームワークって大事かも。

 

そんなことよりも実務だろと言われる方もいらっしゃると思いますが、僕は結構大事だなって思います。でも、やったこと無いことをいくらロジカルに説明されても、理解できないと思うので、順序的には実務経験したうえで、フレームワークの学習をした方が効果的かと。物事を経験したうえで学べば、より深まる。

 

フレームワークの学習と同時に、心理学などにも興味が湧いてきました。そうなると、自然と行動経済学に引き込まれていきます。行動経済学は、主流派経済学に対する批判的な研究として誕生した。僕は教養がそこまでないので、誤った解釈かもしれませんが、経済学は基本的に数学的なことであって、そこに心理学は適用されていない。人間の行動を合理的な数学だけで説明することは無理筋。行動経済学は、必ずしも合理的に動かない人間の心理的、感情的側面を分析した学問であり、マーケターとしては理解しておくことでで意思決定までのスピードは早くなるし、目標達成が近づくんじゃないかと思います。

 

最近、行動経済学関連の書籍をいくつか読みましたが、今回読んだ本は中身を理解するのがスムーズでした。知識を深めてきたからというのも多少はあるかもしれませんが、比較的自分事しやすい表現が多かったと思います。

 

アリエリー教授の「行動経済学」入門-お金篇-

アリエリー教授の「行動経済学」入門-お金篇-

 

ほとんどの人が、しょっちゅうお金のことを考えている。 そして、ほとんどの人がお金のことでしくじる才能を持っている。人間は、お金が絡むことで、判断が鈍り、たまにアホになってしまう。行動経済学は、そういう人間の弱いところを学べる学問。以下、本書を通じて得た知識を備忘録的にまとめました。

 

 ■メンタル・アカウンティング

お金を使うとき、心の勘定科目(メンタル・アカウンティング)というものが存在し、同じ金額なのに不可解な判断をしてしまうことがあり、無意識の場合は愚かな意思決定になる。全てのお金に、その記載された金額の価値があるのではなく、手に入れたそのお金に対して持っている感情に左右され、どの分類に位置付けたかによって、会計処理は変わる。隣のスーパーやガソリンスタンドが数円安いだけで心が動かされるのに、所謂ハレの日や旅行のときの出費は、日常とは全く違う会計基準が適用される。無料というワードにも心が動かされる。無料に釣られて上機嫌になり、判断力を鈍らせられ、買うつもりが無かったものを買わされる。

 

■相対性

お金は汎用性、分割可能性、代替可能性、貯蔵可能性がある非常に便利なものだけど、どんなコインにも裏と表があるように、お金にも裏と表がある。お金は、あればあるほど問題が起こり、お金を使うたびに機会費用を考えるという面倒が発生してしまう。人間は、どう考えてもおかしな心のトリックで、自分にとってどれだけの価値があるか、いくら支払ってよいかを弾き出し、実際の価値とは無関係な方法で価値を評価することがある。比較するときも、全てのものと比較するのではなく、目の前に見えている一つか二つでしか比較をしない。だから欺かれる。割引を見ただけで意思決定プロセスのレベルが低下する、まるで愚かさを呼び起こす薬のようなもの。元の値段に対して、割り引かれた金額を提示され、その価格の比較をもとに決定し、賢い選択をしたと満足することができる。また、比較する際、適正価格が分からない時、高級モデルでもなく、最低モデルでもなく、中間モデルを選ぶ傾向が高い。このような相対性は、生活のあらゆる場面に忍び込み、強力な影響を及ぼす。

 

■出費の痛み 

私たちは消費が好きだけど、お金を支払うのは嫌い。多くの人は、出費そのものではなく、出費について考えることから痛みが生じている。前払いなら多くの出費を惜しみ、後払いなら出費を渋り、都度払いなら更に出費を減らす。前払いは、チャージ時に痛みは感じるものの、チャージした価値を使う時にはほとんど痛みを感じなく、将来の支払いに頭を悩ませる必要がない。ギフトカードは決まったものにしか使えないから、意思決定がしやすい。クレジットカード支払いは、将来のお金を現在のお金よりも低く評価しがちなことを利用したタイムシフトという側面だけでなく、支払いへの注目を減らす力もある。デジタルウォレットが主な決済手段になると、今よりも更に誘惑に陥落しやすくなる。

 

■アンカリング / ハーディング

購買するときに一番信用するのは自分自身で、アンカリングの餌食となる。なにかの決定を下すとき、その決定とは全く関係のない物事に引きずられるもので、この価格なら買うという留保価格は、実際に自分にとってどれだけの価値があるかということだけではなく、市場価格の影響を受ける。また、何なのか知らない値で価値を提示されると影響されやすくなる。アンカーが意識に入り、自分のものとして受け入れたとたん、私たちはそれが重要で、確かな情報に裏打ちされていると、直感的に信じてしまう。それは他人が高く評価しているように見え、価値が高いに違いないと考えるためで、行列に並ぶことと近い。この行為はハーディングによるもので、人は基本的に群れをなしたいという傾向によるもの。

 

過去の自分が高く評価したことも、高い価値があると考える自己ハーディングという傾向もある。自分が前に下した決定は最高で、最もな理由があるに決まっていて、最善の決定をしたと思い込むと、その後、裏付ける情報を探し出し、自分の素晴らしさに満足する、価値判断を惑わす確証バイアスは非常に危険なもので、ある種、思考停止した状態とも言える。

 

■授かり効果 / 損失回避性 

何かを所有すると、その価値以上に高く評価するもので、この授かり効果は、形あるものの方がより高くなる。トライアルオファーで、所有意識を高めて、所有前よりも評価を高め、購入に導く。仮想の所有意識であっても評価は高まる。人は損失の痛みを、同等の利益を得る喜びよりも強く感じる生き物。所有しているものを手放すときに感じる痛みは、所有していないものを得る喜びよりもずっと大きい。サブスクリプションなどで数日間無料お試しが横行しているのも、このあたりの効果によるもの。

 

利益よりも損失を重く感じ、所有物を過大評価する人間の傾向は、一度何かに投資すると、その投資を簡単に諦らめられなくなるサンクコストにとても強力に作用する。投資したものを失いたくないがために、希望的観測をもって損の上塗りをする。サンクコストを過大評価するから、ますます諦めれなくなり、更に墓穴を掘ることになる。サブスクリプションは本当に巧妙なセールス手段と感じる。

 

■公正さ / 労力

人間らしい人間は、価値と価格の他に公正さも考慮する。物事の公正不公正は労力の度合いで感じ方が異なり、労力がかかっていると見せかけた方がお金を払いやすい。価値と労力が入り交じるせいで、高いお金を払うことがあり、労力が目に見えないことは評価されにくい。物理的なモノ自体はなにも変わらないまま、言葉によって労力を見せかければ、私たちの経験は変化し、それとともに支払い意思額も変化する。言葉には、商品に対する私たちの見方を変え、その表現方法に見合った対価を要求するという魔法の力がある。消費の語彙が、これから消費しようとするものを表現するだけでなく、生産の過程も説明すると、より一層その商品を高く評価する。職人風、フェアトレードなどの用語は、創造性や独創性だけでなく、特別な労力をかけていることを表し、価値が高いことを暗に示している。シェアリングエコノミーの拡大も、言い回しがポジティブだからと言える。

 

どんなものでも労力をかけてその創出に関わると、より一層愛着を感じるもの。これをイケア効果と呼び、それは難しければ難しいほど、愛着は高まり、さらに儀式化することで、過去や将来の同じ経験と結びつけることかできる。儀式は自分で物事をコントロールしているという感覚を高め、経験の価値を高める。消費に深く関わるから、楽しさが増す。

 

経験の価値は、実際に経験する前の時点で更に高めることができる。期待できると予期するだけで経験の価値は高まり、期待が低いと経験の価値が下がる。高まった期待は経験に対する評価そのものを変化させる。ブランドは期待を生み出し、価値に対する認識を高め、実際のパフォーマンス向上をもたらす。

 

■自制

未来の何かよりも、今この瞬間の何かを高く評価する傾向がある。それは目の前の現実は詳細や感情などがはっきりとした形を成しているが、未来はそうではないから。今は私たちを誘惑するが、未来は誘惑しない。意思だけで誘惑に勝つのは難しい。

 

シグナリング

明らかな価値の手がかりがない場合、私たちは価格を価値と関連づける。真の価値や理屈関係ない場合でも、高い価格は高い価値をシグナリングする。価格はいつでも簡単に定量化、計測、比較することができる指針となる。製品を比較する際、評価可能性と呼ばれる定量化可能な特性で比較する。

 

 

本を読み終えると、これら例に挙げた手法は、日常生活のあらゆるところに潜んでいて、僕たち消費者の判断を巧みに操っているということがすぐに分かる。場合によっては、行動経済学という認識はなくとも、感覚的にやれているというケースもあるかもしれません。

 

消費者としては、このような手法で心を躍らされることに気をつけ、不合理な要因を他から押し付けられるのではなく、自分自身で判断することが重要。モノやコトを売る側は、テクノロジーの進化をウォッチしながら、このような手法で購買行動を設計することで競争優位に立てると改めて感じた。引き続き、行動経済学に注目していきたい。

 

アリエリー教授の「行動経済学」入門-お金篇-

アリエリー教授の「行動経済学」入門-お金篇-