勝川STAND

勝川STANDは、個人事業主様・フリーランス・小規模店舗経営者様に、無料ツールを使って、撮影から制作までリーズナブルにクリエイティブを提供します。

『小売再生』リアル店舗はメディアになり、今売っている商品が無料になることを想像する。

 今回はもともと本屋で見て気になっていたなか、「Voicy」の”風呂敷畳み人ラジオ”でNews Picksの最所あさみさんが紹介していたことが決め手になって、本書を読みました。Twitter見ていても、同じ動機の方、結構いました。

 

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

小売再生 ―リアル店舗はメディアになる

 

 

何年後とか具体的なものはありませんが、自分は将来的に店舗を構えるということに強い興味があります。ですが、単純に現状世の中に溢れる業態、例えば飲食店を普通にやるということには疑問があります。体のつくりが強いわけではない自分が、店頭で汗水垂らしてやれる自信がないということと、飲食の提供だけでビジネスとして成り立つのか疑問があります。なので、どうしたら新しいかたちの店舗がデザインできるのか、それについて常に頭のどこかではヒントを探しています。そんな自分にとっては、すごく刺激的な本でした。

 

今の経済は、ありふれたものばかりのコモディティ化と、経験経済への移行が複雑に絡み合っている。マーケティングの肝は経験にある。体験や商品を、消費者個人の趣味嗜好に合わせるほど、消費者を惹きつけ、強く印象に残すことができる。今も未来も、現実こそが、最高に充実した体験を生み出す源泉である。しかし、テクノロジーが進化したのに、小売という概念や在り方は、ほとんど変化していない。小売は崩壊に向いつつも、驚くべき産業が生まれようとしている。

 

店舗の脅威は間違いなくAmazonAmazonが強くなったのは、業界の競合他社が目の前の脅威を意地でも認めようとしなかったから。発明は、長い間周囲に理解してもらわなくても構わないという覚悟があれば、実現に近づく。Amazonの収益源は本業ではなく、クラウドサービスであるAWSが大きなウェイトを占める。売上自体は全体の9%であるものの、利益は全体の56%という驚異的なビジネスモデル。Amazonはとにかく便利な地上最上級のショッピング体験を目指すだけでなく、最上級のサードパーティロジティクスを目指し、また、他の小売が考えることができていない宇宙ビジネスにもいち早く着手している。明らかに競合とは見えている世界が違う。

 

昔はマスメディアは頼りになる存在で、消費者が購入に至る流れもシンプルで予測可能だった。アメリカ人は、未だに1日3・4時間テレビを見るものの、CMが流れる間に暇つぶしにスマホがある。広告費がSNSのデジタル広告へシフトしているが、どこまで届いているのか不透明感は否めなく、確かな効果が得られているという実感は薄い。広告主は罠に磨きをかけるが、消費者は罠を嫌う。広告という考え方自体、人々が目にしたくないもので、世の中を汚す行為。広告のあり方を再定義する必要がある。

 

手軽さや、利便性が売りのオンラインに対して、手間や過酷さがつきまとうオフラインショッピング。メディアと店がそれぞれ担っていた役割が入れ替わるという歴史的な転換期であり、メディアが実質的に店になろうとしている。メディアは最初の情報伝達を行い、店は最後の商品供給の場であったが、あらゆるネット系の広告から直接購入できる今、店こそがメディアになりつつある。

 

IoTの発展によって、今後、無能な無生物だった物体や場所が、通信可能な賢い存在となって、私たちの生活を支える可能性がある。ネットワーク接続された端末が集まって、AIの階層を生み出し、外部頭脳の役割を果たすようになる。今の人類は、人間の自然言語と機械の高度な知性が組み合わさる未知の領域の最先端に立っている。チャットボットやデジタルアシスタントの出現を受け、Eコマースから対話型のCコマースの時代に入る。消費者はより考えることなく、自分の欲しいものを簡単に買うことができる。没入感や臨場感の精度が高まるVRによって、より自宅で買い物することが簡単になる未来もすぐそこに見えている。

 

だが逆に、VRなどの技術が暮らしに入り込むにつれて、現実の店で買い物を楽しむことの価値は高まる。デジタルは世界を広げてくれるわけではなく、私たちが楽しいものを勧めてくれる結果、個人の世界は収縮に向かい、考えずに最短距離で目的に到達することで、セレンディピティが無くなる。ショッピングの本当の楽しみは、妥当性と偶発性の絶妙なバランスにある。人混みを嫌うのに、無意識に人混みを探すのが人間。素晴らしいショッピング体験を神経学的に見ると、コカインを吸引した時とほぼ同じ反応するという。脳内でドーパミンが最も放出されるのは、褒美そのものでなく、褒美への期待時。さらに、確実にもらえると保証されるよりも、骨折り損になるリスクがある場合のほうが、より放出される。一貫性と信頼性を大事にする一方で、自力で何かを発見する偶発性と、買いそびれの不安感も盛り込むことが小売に必要な戦略と言える。

 

アップルには実店舗があり、Amazonには実店舗はなく、故にAmazonはアップル並みにデジタル機器を浸透させることができていない。ミレニアル世代は、物資的な所有を避け、ハイブランドに興味を持たないデジタルネイティブで、モノよりもコトに消費する世代。しかし、若い世代ほど、実店舗に最も大きな愛着を感じている。それは、音楽がタダで手に入る時代に、フェスに人が集まるということが物語っている。インターネットから飛び出して、現実世界に逃避したいニーズが強い。ミレニアル世代は、リアル店舗を嫌っているのではなく、コモディティ化されたリアル店舗には、ろくな事がないと感じている。そもそも、どの世代においても、商品を購入する前に、手に取りたいという根本的なニーズがある。ナイキでは3Dプリンターを活用して、ネットでの注文のオーダーメードから、来店でのプリントに変わるだろう。3Dプリンターは間違いなく新しい産業革命であり、とりわけオンデマンド生産により、経済モデルとして大きなイノベーションの可能性を秘めている。

 

リアルとデジタルの絶妙なバランスを取るには、よく考え抜いた巧みな体験型デザインを導入することが第一歩。どの条件が整えば、物理的に関わり、没入してもらえるか探る。五感を刺激して、店を出た後も長らく印象に残るような体験をデザインする。小売は、同じ指標を追いかけるから、ショッピングモールに同じような店が並ぶ。これからの時代は、実店舗の目的はもはや商品を売ることではない可能性がある。体験をどうデザインし、どう実行し、どう評価すれば良いのかを考える。

 

ディズニーのテーマパークのデザインを作る上で欠かせないのがストーリー。ストーリーをショッピング体験の中核に据えた場を創り出すことが必要と言える。未来の小売スペースは、単に何かを取りに行くのではなく、ワークショップやデザインスタジオのように、何かを作るために行く場になる。リアル店舗こそが、最も強力で直接的な影響力を持つ極めて重要な存在になる。リアル店舗には、購買行動にあって当たり前になったレビューなど、ユーザーの手によるコンテンツのかけらもない。つまり、消費者脳はポスト・デジタルになっているのに、小売が付いていけてない。朝から晩までスマホを使う人たちを、その時だけ使わなくするのは無理筋。

 

今後、リアル店舗は消費者の購入プロセスの終着点ではなく、出発点になる。これまでの小売は、拡大を続ける都市部の市場をカバーしたいメーカーにとって必要な箱物だったが、消費者が販売員よりもGoogleを信用している今の時代、体験型の優れた劇場が必要。ポスト・デジタルの時代は、インターネットで欲しいものに一瞬で辿り着くことができるため、希少性は意味を持たない。何を売るかではなく、いかに売るかがこの上なく重要になる。独自性があり、鮮烈に記憶に残るような体験を生み出す。この新しい時代には、競争相手は従来の競合他社ではない。今のライバルに目を光らせるほど、創造的破壊者の襲来に気づかない死角が増える。誰かに息の根を止められる前に、自ら古い自分を捨て去れるかどうか。今売っている商品が無料になることを想像する。

 

テクノロジーに体験そのものはなく、あくまで体験が繰り広げられる土台にすぎない。デジタルありきでスタートするのではなく、もっと充実した体験はどうあるべきかを探ることから着手すべき。独自のブランドストーリーを効果的に目の前で訴求することこそが顧客体験。帝国の多くは、組織のエネルギーの大部分を帝国を維持するためだけに消費されていて、本来なら顧客に振り分けられるはずのエネルギーを枯渇させている。成功している小売は、体験のデザインから設計、作り込み、最終的な仕上げに至るまであらゆる面で徹底し、従業員に対して、ブランドの持つ意味や演出したい体験内容に関して厳しくする一方、顧客をどのように満足させるかは任せている。代表的な企業で言えば、リッツカールトンは舞台美術の発想で設計されている。体験とは、小さな瞬間の積み上げで、優れたサービスとは、突き詰めれば人であり、施設であり、五感である。

 

小売は死んだのではなく、概念が変貌している。

それに気づけるのかどうか。

今ある常識は、将来、必ず誰かの手で徹底的につくり直される。

そのときにどう準備するのか。